英語には日本語ほど丁寧さの程度による変化がないから,日本語ほど敬語などに気を遣わなくても良いことが多い。ただし,依頼表現だけは日本語と同じ,または日本語以上に複雑で,注意しなければならないところである。私は1983年に来日して以来,日本語がわからない外国人が日本人の意図を誤解して怒ったところを何回も見たことがある。その誤解の理由はいろいろあるが,最も多いのは,外国人が日本人に英語で何かを頼まれて,その依頼表現を失礼だと感じていたことである。その日本人達は丁寧に話すつもりであったのであろうが,“Will you ~”など,ぶっきらぼうに聞こえる表現を使ってしまっていたのである。
たとえば,外国の研究者に論文のプレプリントを頼むときに,どういう表現が使えるだろう。その研究者と面識があるかないか,あるとしたらどのくらい親しいかによるので,一概にはいえないが,次のように「ひじょうに親しい友達」から「まったく知らない人」まで,いくつかのパターンがある。
最後の表現は,いろいろなフォーマルな場面で使えるから覚えておこう。でも,それよりもさらに丁寧に依頼する方法がある。それは相手にとってできるだけ断りやすいようにするのである。“I was wondering if you could ~”などで頼んでも,相手にとってはそれが無理または面倒である場合,“I’m sorry, but I can’t.”のように返事しなければならない。だれにとっても人の依頼を断るのは愉快なことではないので,「したくない」「できない」のような返事を出さなくても良いように依頼するのがベストなのである。
シチュエーションによって文型が変わるので,この間接的な依頼方法を例から見てみよう。まず,プレプリントを送ってほしいときには次の表現が使える。
これを断る必要があれば,“I’m sorry, but no preprints are available.”で済む。“be available”は少し曖昧な表現なので,だれの責任で手に入らないかは不明である。その曖昧さのおかげで,相手にとっては断りやすい依頼になる。